夏を置いて

8月が終わる。

塞ぎ込んで何をする気にもなれなかった1年目から抜け出した、社会人2年目の夏はとても楽しくて、今までで一番楽しい夏といっても過言ではなかった。

海にも行ったし、花火にも行った。飲みにもたくさん行った。
そんな素敵な場所に、大好きな人たちに、私が必要とされていた。
人のありがたみを、痛感した日々だった。


そして、散々引きずっていた人とも会った。
連絡が来た時は、まさかと思った。
心臓がきゅっとなって、それ以外何も考えられなくなった。

答えは既にそこにあったのだろうか。

最初は気まずい気がしたけど、話していくうちにあの頃に戻っていくようだった。
夢みたいな数時間だった。
テーブルを整理するためにその人が皿を動かす仕草でさえ、懐かしく感じた。

元カノの話を聞いたとき、わたしは悪い癖で「その子より私の方が可愛いでしょう」と言った。
返ってきた「それは比べられないかな」という言葉が、私を貫いた。

人を下げない彼が好きだった。
付き合っていたとき、不安に見舞われた私に、「元カノは元カノ、今は今で別物だよ」と伝えてくれたことを思い出した。

彼が彼らしく、素敵な感性を持ちながら生きていること。
その事実だけが知れただけでよかった。


もう、彼のことは好きじゃなくなっていた。
未練がましく思っていた時間は、綺麗な思い出と、醜い執着の狭間で溺れていただけだった。


たった、それだけのことだった。